プライバシー保護機能を持つブロックチェーンプロジェクト「Zcash」において、新たなフルノードクライアント「Zakura(バージョン1.0.0)」がリリースされました。これは、Zcashのプライベート取引の処理能力を、現在の毎秒約1〜20件から、決済ネットワーク規模である毎秒50,000件(TPS)へと引き上げる計画の最初の実稼働コンポーネントです。Zcash財団から独立したチームによって開発されたこの新ノードは、将来のグローバルな決済需要に対応するための重要なインフラ基盤として位置づけられています。
50,000 TPSのプライバシー決済を目指す背景
Zcashは現在、暗号技術であるzk-SNARKs(ゼロ知識証明の一種)を用いて、送信者、受信者、取引額を秘匿したシールド(保護)トランザクションを提供しています。しかし、この高度なプライバシー保護には膨大な計算負荷がかかるため、現在の処理能力は毎秒約3〜20件程度にとどまっており、ビットコインのベースレイヤーと同等の規模に制限されています。
今回リリースされた「Zakura」は、この処理能力をVisaやMastercardなどの大手決済ネットワークに匹敵する「毎秒50,000件(50,000 TPS)」へと拡大することを目指す長期計画の第一歩とされています。現在のシステム構成のまま毎秒50,000件の取引を処理しようとすると、ノードには毎秒500MB以上のスループットが必要となり、既存の技術スタックでは対応できません。そのため、検証データを削減し、ウォレットのパフォーマンスのボトルネックを解消するための新しいアーキテクチャが必要とされていました。
新フルノード「Zakura」の技術的特徴とパフォーマンス向上
Zakuraは、Zcash財団が開発したノードソフトウェア「Zebra」をベースに、軽量化と高速同期(ファストシンク)を施したフォークとして開発されました。主な技術的特徴と向上したパフォーマンスは以下の通りです。
・同期速度の高速化:従来のZebraでのフル同期には約20時間46分を要していましたが、Zakuraでは約4時間20分と、約5倍の高速化を実現しています。
・セットアップ時間の短縮:プルーニング(データ削減)やスナップショット同期機能をサポートしており、新規ノードのセットアップ時間を2分未満に短縮することが可能です。
・互換性の維持:従来のクライアントである「zcashd」との互換モードを備えており、zcashdのサポート終了(エンドオブライフ)に向けた移行を円滑にします。
・独立した開発体制:Zcashのゼロ知識暗号技術の創設メンバーであるSean Bowe氏や、Osmosisの共同創設者であるDev Ojha氏らが率いる独立チームによって維持されています。開発資金は、特定の企業や財団からではなく、プライベートなZECトークンの寄付によって賄われています。
今後のスケジュールと「Ironwood」アップグレードへの対応
Zakuraは、2026年7月28日にメインネットで有効化される予定のネットワークアップグレード「Ironwood(NU6.3)」を初期状態からサポートしています。
Ironwoodアップグレードでは、Orchardシールドプールからの引き出しを規制する「ターンスチル(改札口)メカニズム」が導入されます。これにより、過去の脆弱性に起因するZECトークンの不正な偽造リスクを軽減し、供給管理を強化する予定です。
また、Zakuraは処理能力の更なる向上を目指す「Project Tachyon」や、プライベート情報検索(PIR)に関する研究とも連携しており、これらを通じて将来的なスケーラビリティの確保を目指すとしています。
ポイント
・Visa規模のプライバシー決済に向けた第一歩:Zcashのシールド取引を毎秒50,000件規模へ拡大する計画の、最初の実稼働コンポーネントとしてリリースされた点で注目されます。
・同期速度が約5倍に向上:従来のZebraノードに比べて同期時間が大幅に短縮され、新規セットアップも2分未満に抑えられるなど、運用効率が改善されています。
・財団から独立した開発体制:特定の企業や財団に依存せず、プライベートなZECの寄付によって開発が維持されている独立性の高さが特徴です。
・次期アップグレード「Ironwood」をサポート:2026年7月28日に予定されているアップグレードに対応し、トークンの偽造防止や供給管理の強化に貢献します。