イングランド銀行による英ポンド建てステーブルコイン発行への前進や、日本における円建てステーブルコインの展開など、世界中でステーブルコインの法整備と実用化が加速しています。Ethereumのレイヤー2ネットワークであるMorphのエコシステム責任者であるRenna Ba氏は、2030年までにステーブルコインが世界のクロスボーダー決済(国境を越えた決済)の最大10%を占めると予測しています。本記事では、国内外におけるステーブルコインの最新動向と、企業決済の効率化を狙うインフラ構築の重要性について解説します。
世界で加速する法定通貨建てステーブルコインの整備
イングランド銀行は2026年6月22日、英ポンド建てのシステミック・ステーブルコイン(決済システムにおいて重要な役割を果たすステーブルコイン)発行に向けた政策声明と実務規範案に関する市中協議文書を公表しました。同行は2026年末までに実務規範を最終化し、2027年からの運用開始を目指しています。現在、DeFi(分散型金融)における英ポンドのオンチェーンデジタル資産としては、FCA(英国金融行動監視機構)に登録されたBCP Technologiesが発行するtGBPが最大規模(時価総額約3100万ドル)ですが、3200億ドル規模に達する世界のステーブルコイン市場の多くは米ドル建て(USDT、USDC)が占めています。
日本国内でも、円建てステーブルコインの動きが活発化しています。2025年10月に正式リリースされた資金移動業者型のJPYCは、2026年5月にKaiaネットワークへ統合されました。さらに、SBIホールディングスとStartale Groupの提携による信託型ステーブルコインであるJPYSCが、2026年6月24日に先行提供を開始しました。
円建てステーブルコインの普及とMorphが描く決済レイヤーの役割
Ethereumのレイヤー2決済ネットワークであるMorph(RWAのトークン化とグローバルな暗号資産決済に重点を置くネットワーク)のエコシステム責任者、Renna Ba氏は、主要なステーブルコインすべてをMorph上で利用可能にする「グローバルなステーブルコイン・アライアンス」の構築を進めています。
円建てステーブルコインが国際決済で普及するにあたり、Ba氏は資金移動業型における100万円の送金上限が大口の企業送金を制約する可能性があると指摘しています。一方で、信託型であるJPYSCは別の制度設計となるため、普及に向けては各類型に応じた規制対応と流動性の整備が課題となります。また、日本国外での円建て資産のセカンダリー市場(二次流通市場)における流動性不足を解消するため、Morphネットワーク全体で厚みのある流動性プールを構築することが不可欠であると述べています。
2030年までにクロスボーダー決済の10%を占める予測とB2B決済への注力
Morphは2026年4月のレポートで、2030年までにステーブルコインが世界のクロスボーダー決済の最大10%を占める可能性を予測しています。Chainalysisの調査によると、2025年における実体経済ベースのステーブルコイン取引額は28兆ドル(全体の約1〜2%)に達しています。
この予測水準に達するために、Ba氏は3つの規制上の柱が必要であると説明しています。
第一に、米国における銀行システムとの統合です。これには、米国のステーブルコイン規制法とされるGENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)の完全実施や、米連邦準備制度理事会による限定的なマスターアカウント指針の最終化が含まれます。
第二に、国際的なルールの調和です。金融安定理事会(FSB)の勧告に基づき、G20各国が足並みをそろえ、国境を越えて法定通貨準備を1対1で保有する統一基準を徹底する必要があります。
第三に、コンプライアンス面での合意形成です。FinCEN(金融犯罪取締ネットワーク)による共同規則の最終化と、グローバルなAML/CFT(マネーロンダリング防止およびテロ資金供与対策)の枠組みの整備が求められます。Morph自身も2026年6月にBeosin KYT(ブロックチェーンAMLコンプライアンスプラットフォーム)との提携を発表し、オンチェーン金融におけるコンプライアンス対応を強化しています。
また、Ba氏は既存のWeChat PayやAlipayなどの決済サービスを競合とは捉えず、加盟店や事業者が直面する「遅い決済サイクル」「高額な国際送金・為替手数料」「運転資金の拘束」といったバックエンド(事業者側のシステム)の課題を解決することに焦点を当てています。EYの2025年9月の調査でも、ステーブルコインを導入する企業の62%がクロスボーダーの仕入先支払いを主要用途として挙げ、導入予定の組織では78%が利用意向を示すなど、B2B(企業間)決済や財務管理(トレジャリー)領域での需要が高まっていることが示されています。
ポイント
- 国内外における規制整備の進展:英国では2027年のポンド建てステーブルコイン運用開始に向けた動きが進む一方、米国ではGENIUS法の実施、日本では資金移動業者型(JPYC)や信託型(JPYSC)の展開など、規制に準拠したステーブルコインの基盤が整いつつあります。
- Morphによるグローバル連携の推進:Ethereumのレイヤー2決済ネットワークであるMorphは、JPYCやJPYSCなどの先進的なステーブルコイン発行体と連携し、クロスボーダー決済へ即座にアクセスできるインフラ(グローバルなステーブルコイン・アライアンス)の構築を目指しています。
- 100万円の送金上限と流動性が課題:日本発の円建てステーブルコインが国際決済で普及するには、資金移動業型における100万円の送金上限という規制上の制約や、海外セカンダリー市場における流動性プールの構築が重要な論点となります。
- B2Bおよび企業財務での需要拡大:ステーブルコインの普及は消費者向け決済よりも、決済サイクルの高速化や為替摩擦の解消を求めるB2B決済や仕入先支払いといった事業者のバックエンド最適化の観点から加速すると見られています。