米国において、暗号資産市場全体のルールを包括的に整理する「CLARITY(クラリティ)法案」が重要な局面を迎えています。2026年7月13日の米上院再開から8月上旬の夏季休会までの実質4週間が、法案の命運を分ける審議の山場とされています。この法案は、規制の曖昧さを解消し、分散型金融(DeFi)や自己保管(セルフカストディ)の権利を法的に定義することを目指しており、今後の米国におけるオンチェーン金融のあり方を決定づける歴史的な分岐点になると見られています。
包括的な市場構造の確立と「分散化」の定義
CLARITY法案は、米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)の管轄の曖昧さを解消し、米国における暗号資産市場のルールを整理するための包括的な市場構造法案です。具体的には、デジタル商品の定義やトークンの分類、取引所やブローカーの登録制度、開示義務、顧客資産保護、マネーロンダリング対策(AML)、破産時の顧客資産の扱いなどを幅広く整理するもので、今後のデジタル金融の基盤を設計する役割を持っています。
本法案で特に注目されているのが、「Ancillary Asset(補助的資産)」という考え方です。従来の証券法とは異なり、ネットワークが成熟して十分に分散化が進めば、トークンの性質も変化するという現実を法制度に反映させようとしています。
DeFiとソフトウェア開発者・自己保管の保護
本法案では、分散型金融(DeFi)に対する新しいアプローチが試みられています。下院版ではすでに、ノード運営者、バリデーター、オラクル提供者、ウォレット開発者、プロトコル開発者、流動性提供者を金融仲介業者として扱わない方向性が示されていました。
さらに上院版では、「Non-Decentralized Finance Trading Protocol(非分散型金融取引プロトコル)」という概念が導入されています。これは、実質的に特定の主体に支配されているプロトコルは規制対象とする一方で、本当に分散化されているDeFiについては、従来型の金融機関と同様の規制を適用しないという方向性です。
また、ソフトウェア開発者や自己保管(セルフカストディ)の権利を保護するための各種規定(Protecting Software Developers、Blockchain Regulatory Certainty ActのSection 604、Keep Your Coins Actなど)も盛り込まれています。これにより、「コードを書くこと」と「金融サービスを提供すること」を法的に区別し、開発行為そのものを規制対象から除外するとともに、ユーザー自身がウォレットで資産を管理する権利を守ろうとしています。
成立に向けた今後のスケジュールと政治的な課題
上院本会議は7月13日に再開されますが、最初の週は国防権限法(NDAA)などが優先されるため、CLARITY法案の本格的な議論は早ければ7月20日の週になると見られています。
法案成立に向けては、主に以下の3つのステップを乗り越える必要があります。
1. 上院での60票の確保
上院で審議を進めるためには60票の賛成が必要ですが、共和党の保有議席は53議席であるため、民主党から少なくとも7人程度の賛成を得る必要があります。現在、民主党との間では、トランプ大統領一族の暗号資産ビジネスに関する利益相反を防ぐ「倫理条項」や、資産を預からない開発者などを送金業者向け規制から除外する「Section 604」の扱いを巡り、調整が難航しています。
2. 上下院の条文の一本化
下院はすでに2025年に独自のCLARITY法案を可決しているため、上院版との調整と一本化が必要です。しかし、現在の下院では「SAVE Act」を巡る議事運営の混乱があり、審議日程に影響を与える可能性があります。
3. 下院の最終承認と大統領署名
一本化された法案を下院が最終承認し、大統領が署名することで成立します。トランプ大統領は暗号資産政策に前向きな姿勢を示しているため、議会を通過すれば署名段階での障害は低いと見られています。
もしこの夏季休会までの実質4週間で方向性が固まらなければ、その後の政治日程(中間選挙や2028年大統領選挙など)の影響により、次の本格的な成立機会は2030年前後まで遅れる可能性があると指摘されています。
ポイント
- CLARITY法案は、SECとCFTCの管轄を整理し、デジタル商品の定義やトークン分類を明確にする包括的な市場構造法案です。
- ネットワークの成熟に伴いトークンの性質が変化する「Ancillary Asset(補助的資産)」の概念を導入し、分散化のプロセスを法的に認める点が画期的です。
- 「コードを書くこと」と「金融サービスを提供すること」を明確に区分し、真に分散化されたDeFiやソフトウェア開発者、自己保管(セルフカストディ)の権利を保護する姿勢を示しています。
- 2026年7月13日の上院本会議再開から8月上旬の夏季休会までの実質4週間が、法案成立に向けた極めて重要な分岐点となります。
- 上院での60票確保(超党派の協力)、難航する倫理条項やSection 604の調整、下院との一本化など、成立までには複数の政治的ハードルが存在します。