ビットコインの用途を巡る開発者の対立:データ制限提案「BIP-110」とフォークのリスク

ビットコインのブロックチェーンをどのような用途に用いるべきかを巡り、開発者間の議論が激化しています。オンチェーンでのデータ保存を一時的に制限することを目指すソフトフォーク提案「BIP-110」の有効化が2026年8月上旬に迫る中、Ordinalsなどのインスクリプション開発者と、提案の支持派・反対派の間で緊張が高まっています。本記事では、BIP-110の技術的な背景や双方の主張、そして懸念されるネットワーク分裂のリスクについて解説します。

BIP-110の概要と提案の背景

ビットコインの用途を巡る開発者の対立:データ制限提案「BIP-110」とフォークのリスク

BIP-110は、ビットコインのブロックチェーン上に画像やテキストなどの任意のデータを永久に保存する「インスクリプション(碑文)」技術を制限し、ビットコインを「お金(決済システム)」としての本来の目的に集中させることを目指す一時的なソフトフォーク提案です。この提案は、ペンネーム「Dathon Ohm」氏によって執筆され、ビットコインのノード用ソフトウェアであるBitcoin Knotsのメンテナー、Luke Dashjr氏によるドラフトを基にしているとされています。

BIP-110が有効化されると、トランザクションに含まれる追加データのサイズが1年間限定で1ピースあたり最大256バイト(短いテキスト1段落程度)に制限されます。この制限により、現在OrdinalsやRunesなどの技術で用いられているインスクリプションの手法が機能しなくなるとされています。なお、この制限は1年間限定で自動的に解除され、過去に作成されたコイン(UTXO)には影響を及ぼさない仕様となっています。

決済の優先か、オープンな利用か:議論の争点

開発者の間で対立しているのは、「ビットコインの限られたブロックスペースを何に使うべきか」という根本的な問題です。

支持派は、ビットコインの本来の機能は決済や価値の移転であるべきだと主張しています。インスクリプションのように決済とは直接関係のないデータを大量に保存することは「オンチェーンのスパム」であり、ネットワークの混雑や取引手数料の高騰を招いて一般ユーザーの利用を妨げていると懸念しています。

一方で反対派は、ビットコインはパーミッションレス(誰でも自由に利用可能)なネットワークであり、手数料さえ支払えばブロックスペースをどのような用途に使用しても自由であるべきだと考えています。

特異なアクティベーション方法と懸念されるフォークリスク

BIP-110のアクティベーション(有効化)のプロセスは、ビットコインの他のアップグレードとは異なる特異な性質を持っています。

通常、提案の有効化にはマイナー(採掘者)による一定以上の支持が必要です。BIP-110では、2週間の期間中に採掘された2,016ブロックのうち1,109ブロック(55パーセント)に支持を示すフラグを追加することが求められています。しかし、2025年12月の投票開始以来、パブリックモニターによる支持率は1パーセント未満にとどまっており、2026年6月30日時点での支持率は0.73パーセントとなっています。

それにもかかわらず、BIP-110を導入しているノードは、マイナーの支持投票結果に関わらず、2026年8月上旬頃からフラグのないブロックを拒否するように設定されています。このため、多数のマイナーが支持しないまま制限が強制され、ビットコインのネットワークが2つの異なるチェーンに分裂する「フォーク(分岐)」のリスクが指摘されています。BlockstreamのCEOであるAdam Back氏や、MicroStrategyのMichael Saylor氏なども、このフォークリスクに対して警告を発しています。

Ordinals開発者による対抗策

BIP-110によるデータ制限に対し、Ordinals開発者側は「インスクリプション技術は生き残る」と表明しています。

2026年7月2日、Ordinals開発者のlifofifoX氏は、ファイルをより小さなピースに分割することで、256バイトの制限を回避するワークアラウンド(回避策)を公開しました。Ordinalsの創設者であるCasey Rodarmor氏も、この回避策を直ちにマージ(統合)するのではなく、BIP-110が実際に有効化されるまで待つという方針を支持しています。これにより、仮にBIP-110が有効化されてデータ制限が開始されたとしても、インスクリプションの利用は継続される見通しです。

ポイント

  • BIP-110は、ビットコインのブロックチェーン上の追加データサイズを256バイトに制限し、Ordinalsなどのインスクリプション活動を抑制して決済機能を優先させるための提案です。
  • マイナーによる支持率は1パーセント未満と極めて低いものの、BIP-110を実行するノードが8月上旬から未署名のブロックを拒否する仕様であるため、ネットワーク分裂(フォーク)のリスクが懸念されています。
  • Ordinals開発者側は、データを細分化して制限を回避する技術的解決策をすでに公開しており、仮にBIP-110が有効化されてもインスクリプションは継続できると主張しています。
  • この議論は、ビットコインのブロックスペースの有限性と、「パーミッションレスな利用」対「決済システムとしての純粋性」という、ブロックチェーンの根本的な存在意義を問うものであるため、今後のビットコインエコシステム全体の方向性を左右する重要な局面として注目されます。

監修者:Pacific Metaマガジン編集部

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