ステーブルコインであるUSDCの発行元であるCircle社が、競合のTether社から資金支援を受けていたアービトラージ(金利差や価格差を利用して利益を得る取引)ファンド「Heka Funds」の取引を一時停止していたことが、仲裁手続きの開示書類から明らかになりました。Circle社は、Tether社が同ファンドに8億ドルを投資していたことを知った後、市場操縦の疑いを理由に一時停止の措置を講じたとされています。この出来事は、主要なステーブルコイン発行体間の競争関係や、市場の透明性をめぐるリスク管理の重要性を示す事例として注目されます。
市場操縦の疑いと取引停止の背景
開示された仲裁書類によると、Circle社はTether社がHeka Fundsに8億ドルを投資していることを把握した後に、市場操縦の疑いがあるとして同ファンドの取引を一時停止しました。
海外メディアの報道によると、この問題は2023年3月に発生したシリコンバレー銀行の破綻危機に端を発しているとされています。当時、USDCの価格が一時的に1ドルのペッグ(価値の連動)を下回った際、Heka Fundsは割引価格でUSDCを大量に購入し、Circle社を通じて米ドルに償還(現金化)する取引を繰り返し行っていました。
Circle社は、同ファンドの償還規模が他の市場参加者と比べて極めて大きいことを懸念しました。さらに、償還によって得られた米ドル資金が最終的にTether社に流れ、競合するステーブルコインであるUSDTの市場シェア拡大を支援しているのではないかとの疑いを抱いたとされています。
仲裁手続きの経緯とCircle社への支持
Heka Fundsは、Circle社による取引制限やアカウント停止の措置によって約4,900万ドルの逸失利益が生じたとして、2024年に仲裁を申し立てていました。しかし、2026年2月に下された仲裁判断では、Heka Funds側の請求がすべて却下されたと報じられています。
仲裁人は、Tether社がHeka Fundsの資産の大部分に相当する約8億ドルを投資し、さらに手数料を免除していたという密接な関係を、同ファンドがCircle社に対して意図的に開示していなかったと指摘しました。この行為は誠実さを欠くものであると判断され、仲裁人はCircle社側の主張を全面的に支持し、Heka Fundsに対してCircle社の弁護士費用など約16万6,000ドルの支払いを命じたとされています。
なお、Heka Fundsは市場操縦の事実を否定しており、これまでに規制当局からの調査を受けたことはないと言明していると報じられています。
ポイント
- Circle社は、競合であるTether社から8億ドルの投資を受けていたアービトラージファンド「Heka Funds」の取引を、市場操縦の懸念から一時停止しました。
- 2023年のシリコンバレー銀行破綻時に行われた大規模なUSDCの償還取引が、Circle社に市場操縦や競合への資金流出の懸念を抱かせる契機となりました。
- Heka FundsはTether社との財務的な結びつきをCircle社に開示しておらず、仲裁手続きにおいてこの不開示が誠実さを欠く行為として問題視されました。
- 2026年2月の仲裁判断ではCircle社の主張が支持され、Heka Fundsによる約4,900万ドルの損害賠償請求は却下されています。
- 主要ステーブルコイン発行体間の競争の裏側と、取引相手のガバナンスや透明性の確保が市場インフラにおいて極めて重要であることを示す事例として注目されます。