米証券取引委員会(SEC)は、暗号資産や予測市場といった革新的な資産クラスへの投資や、新たな投資戦略を採用する「新型ETF」について、60日間のパブリックコメント(意見募集)を開始しました。これは、ポール・アトキンスSEC委員長が2026年5月に新型ETFの立ち上げを一時停止する声明を出したことに続く動きです。背景には、ステーキングやステーブルコイン準備資産、オプション取引などを組み合わせた複雑な暗号資産関連ファンドの申請が相次いでいることがあります。本意見募集を通じて、SECは投資家保護と市場の健全性を維持しつつ、金融イノベーションに対応するための規制の枠組みを検証する方針です。
新型ETFを巡る規制見直しの背景と目的
SECが今回開始したパブリックコメントは、これまでにない資産クラスに投資したり、新たな投資戦略を用いたりする上場投資信託(ETF)について、既存の規則が十分に対応できているか、またどのように規制すべきかを市場関係者に問うものです。
米国のETF市場は近年急拡大しており、SECの発表によると、運用資産残高は2019年の約4兆ドル(約650兆円)から、2025年末には12兆ドル超(約1950兆円超)へと膨らんでいます。このように市場が拡大する中、従来の株式や債券を対象とした枠組みでは捉えきれない商品が次々と登場しています。特に、選挙などのイベント結果を予測する取引に連動する「予測市場(プレディクション・マーケット)」関連のファンド申請が滞留していることや、多種多様な暗号資産関連ファンドの登場が、今回の見直しの直接的な契機となっています。
今回の意見募集では、新商品が市場に流入する中で登録手続きの見直しが必要かどうかも含め、幅広く意見を求めます。意見募集の期間は、連邦官報への掲載後60日間とされています。
多様化する暗号資産ETFと複雑化する投資戦略
近年、暗号資産ETFの発行体は、単にビットコインやイーサリアムなどの価格に連動するシンプルな商品から一歩踏み出し、非常に複雑な運用戦略を組み合わせた商品を提案しています。
具体的な事例として、以下のような商品が挙げられます。
- ステーブルコイン準備資産への対応:プロシェアーズは6月、決済用ステーブルコインに関する「ジーニアス法(GENIUS Act、米国のステーブルコイン規制に関する法案とされています)」で認められた準備資産を念頭に置き、米国債を中心に運用する「ジーニアス・マネーマーケットETF」を発表しました。
- ステーキング報酬の獲得:グレイスケールは、暗号資産「HYPE(分散型取引所Hyperliquidのトークンとされています)」へのエクスポージャーを提供しつつ、ステーキング報酬の獲得を目指す「ハイパーリキッド・ステーキングETP(上場取引型金融商品)」を立ち上げました。
- デリバティブやオプションの活用:ブラックロックは1月、オプションを活用したビットコイン収益型ETFである「ビットコイン・プレミアム・インカムETF」を提案しました。また、ゴールドマン・サックスは4月に、ビットコインの現物商品とカバードコール戦略(オプション取引を用いた投資手法の一つとされています)を組み合わせたファンドを打ち出しました。
- 伝統資産との融合:ビットワイズは1月、ビットコインと金、貴金属、鉱山株を組み合わせたアクティブ運用型ETFをローンチしました。
- 配当の自動再投資:フランクリン・テンプルトンは、米国株から得られる配当を、先物やオプション、ビットコイン担保付き預託証券などを通じてビットコイン関連投資へ機械的に再投資する2本のETFを提案しました。
このように、暗号資産ETFは単なる指数連動型にとどまらず、伝統的な金融商品や新たな暗号資産の機能を織り交ぜた複合的な商品へと進化しており、これが規制当局によるルール見直しの議論を加速させています。
業界への影響と今後のスケジュール
今回の規制見直しは、暗号資産やWeb3技術を伝統金融市場に統合しようとする企業にとって、今後の商品設計や事業戦略を左右する重要な分岐点となると見られます。
SECのポール・アトキンス委員長は、一部の発行体が新型ETFの申請プロセスを自主的に遅らせていることを明らかにしており、規制の方向性が定まるまでは新規商品の立ち上げに一定の制約が生じる可能性があります。
また、SECと米商品先物取引委員会(CFTC)は、証券市場とデリバティブ市場にまたがるポートフォリオ・マージン規則(複数のポジションを相殺して証拠金を計算する仕組みとされています)の調和について市場から意見を求めており、伝統金融とデジタル資産の境界における規制の最適化が多角的に進められています。
パブリックコメントの期間は連邦官報掲載後60日間であり、市場関係者からのフィードバックをもとに、SECが今後の具体的な規制変更や登録手続きの改定を検討していくとされています。
ポイント
- SECは、暗号資産や予測市場に関連する「新型ETF」の規制のあり方について、60日間の意見募集を開始しました。
- 背景には、2026年5月にポール・アトキンスSEC委員長が20件以上の新型ETF申請の立ち上げを一時停止したことや、予測市場関連のファンド申請が滞留していることがあります。
- 暗号資産ETFは、単なる現物連動から、ステーキング、カバードコール、ステーブルコイン準備資産、金との組み合わせなど、非常に複雑な投資戦略を取り入れるようになっています。
- 今回のパブリックコメントを通じて、SECは投資家保護と市場の健全性を維持しつつ、革新的な金融商品に対応するための新たな規制枠組みの構築を目指していると見られます。