電子決済手段とは法定通貨に価値を連動させ、不特定の相手への支払いに使えるデジタルマネーを定める資金決済法上の区分です。実務で「ステーブルコイン」と呼ばれるもののうち、日本の法令で扱いが定められた部分がここに入ります。
発行できるのは銀行等・資金移動業者・特定信託会社に限られ、他社が発行したものを売買・交換・管理・媒介する側にも登録義務がかかります。銀行でも資金移動業者でもない企業の検討は、発行体と組む側、あるいは代金として受け取る側から始まります。
2026年6月1日に改正資金決済法が施行され、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の登録制が始まりました。この記事では、自社が発行・取扱・仲介・非該当のどれに当たるかの判定から、立場別の義務、罰則、着手順と担当部門までを扱います。
本記事の記載は2026年7月28日(基準日)時点の情報です。
電子決済手段とは
電子決済手段は資金決済法2条5項が定める区分です。要点だけ言えば、法定通貨建てで発行され、不特定の相手への支払いに使えるデジタルマネーがここに入ります。

条文に沿って正確に定義すると、電子決済手段とは、法定通貨建てで価値が記録され、電子的な仕組みで移転でき、不特定の相手への支払いと不特定の相手との売買に使える財産的価値をいいます。条文は4つの類型を置いています(資金決済法2条5項)。
- 1号:通貨建資産として電子的に記録され、不特定の相手への支払いと、不特定の相手との売買に使えるもの
- 2号:不特定の相手との間で1号のものと交換できるもの
- 3号:特定信託受益権
- 4号:1号から3号に準ずるものとして内閣府令で定めるもの
「通貨建資産」は、円やドルなどの法定通貨で価額が表示され、またはその通貨で払戻しなどが行われる資産です。「特定信託受益権」は、電子的に移転できる形で表示された金銭信託の受益権のうち、金銭の管理・運用方法などの要件を満たすものです(2条9項)。
制度の目的は2つあります。
- 発行者の破綻や資産の流出から利用者を守ること
- 送金や決済にブロックチェーンを使う事業を制度の中に位置づけること
「ステーブルコイン」は実務上の呼び名です。日本では、法定通貨建てで発行価格と同額での償還が想定される一部のステーブルコインについて、資金決済法上の「電子決済手段」として整理される枠組みが設けられています。全体像はステーブルコインとはにまとめています。
電子決済手段と電子マネー・前払式支払手段・暗号資産・預金トークンの違い
隣接する区分との境界は、価値の裏付け、発行できる主体、誰に対して支払いに使えるかの3点で分かれます。この3点が決まると、利用者どうしで送り合えるかどうかと、資金決済法上のどの区分に当たるかも決まります。なお、キャッシュレス決済一般を指す「電子決済」と資金決済法上の「電子決済手段」は別のものです。
| 比較項目 | 電子決済手段 | 前払式支払手段(電子マネー) | 暗号資産 | 預金トークン |
|---|---|---|---|---|
| 価値の裏付け | 法定通貨建ての債権または信託受益権 | 事前に支払われた対価 | 特定の発行体の裏付けを前提としない | 銀行の預金債権 |
| 発行できる主体 | 銀行等・資金移動業者・特定信託会社 | 自家型発行者・第三者型発行者 | 限定なし | 銀行 |
| 不特定の相手への支払い | できる | 加盟店等に限られる | できる | 設計により異なる |
| 利用者どうしで送り合えるか | できる | 原則としてできない | できる | 設計により異なる |
| 制度上の区分 | 資金決済法2条5項 | 資金決済法3条 | 資金決済法2条14項 | 銀行法上の預金として整理される場合がある |
| 代表例 | 法定通貨建てのステーブルコイン | 商品券・プリペイドカード | ビットコイン等 | トークン化預金 |
暗号資産の定義(資金決済法2条14項)は、通貨建資産と電子決済手段を明示的に除いています。法定通貨に価値を連動させた設計であれば、暗号資産ではなく電子決済手段の側で検討します。前払式支払手段も、電子決済手段の1号類型から明文で除かれています。
預金トークンは、銀行の預金債権を電子的に記録・移転できるようにしたものを指す実務上の呼び名で、法令上の定義語ではありません。転々流通を想定する設計かどうかで法的な位置づけの議論が変わるため、個別に確認が要る領域です。
円建ての動きは日本円ステーブルコイン・JPYCで扱っています。預金型の論点は【内部リンク:預金トークンとは】に譲ります。
自社が電子決済手段の規制対象になるかを3つの問いで判定する
対象になるかは業種ではなく「自社が何をするか」で決まります。次の3問で切り分け、Q1は自社が発行主体になれるかどうかでさらに枝分かれします。

“` Q1. 法定通貨に価値を連動させたデジタルマネーを自社が発行するか YES → Q1-2へ NO → Q2へ
Q1-2. 自社は銀行等・資金移動業者・特定信託会社のいずれかか YES → 発行の主体側として設計する (自社発行分を自ら売買・管理もするなら届出) NO → 自社単独では発行できない。既存の発行体と組む設計になり、 自社の役割はQ2以降で判定する → Q2へ
Q2. 他社発行の電子決済手段の売買・交換・管理・媒介・取次ぎ・代理を 「業として」行うか YES → 電子決済手段等取引業(資金決済法62条の3の登録) NO → Q3へ
Q3. 電子決済手段等取引業者の委託を受け、売買・交換の媒介だけを行うか (利用者の金銭・財産を預からない) YES → 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業(63条の22の2の登録) NO → いずれの登録類型にも当たらない可能性が高い “`
Q2の「業として」とは反復継続して行うことを指し、単発の取引か継続的な提供かで判断が変わります。このフローは確認すべき論点を並べたものであり、最終的な該当性は個別のスキームによって変わります。
Q1-2でNOになった場合に次に見るのは、「既存の発行体と組む形なら自社に登録が要るのか」です。電子決済手段を発行できるのは銀行等・資金移動業者・特定信託会社に限られます(詳細は後述の発行の章)。
組む側に登録が要るかどうかは、自社が売買・交換、その媒介・取次ぎ・代理、他人のための管理のどれかを業として行うかで決まります(2条10項各号)。売買の媒介はそれ自体が電子決済手段等取引業に含まれる点に注意します(2条10項2号)。
判定の結果ごとに、見るべき登録区分と根拠条文は次のとおりです。
| 自社の行為 | 見るべき登録区分 | 主な根拠条文(資金決済法) |
|---|---|---|
| 法定通貨建てのデジタルマネーを発行する | 銀行、資金移動業、特定信託会社のいずれかの枠組み | 2条2項・30項・31項、37条 |
| 他社発行の電子決済手段を売買・交換する、その媒介・取次ぎ・代理をする、他人のために管理する | 電子決済手段等取引業 | 2条10項1〜3号、62条の3 |
| 所属業者(仲介を委託する電子決済手段等取引業者等)の委託を受け、媒介のみを行う | 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業 | 2条18項1号、63条の22の2 |
| 自社が発行する電子決済手段を自ら取り扱う | 届出(登録の特例) | 62条の8 |
「いずれにも当たらない」と切り分けられた場合でも、検討は終わりません。代金として受け取るだけの設計や、社内ポイントの発行にとどまる設計でも、次の3点が残ります。
- マネー・ローンダリング対策。資金の出所の確認と取引モニタリングの設計
- 会計・税務処理。受け取った電子決済手段の評価と換金タイミングの確認
- 委託先管理。決済事業者やウォレット提供者の登録状況と契約条件の確認
電子決済手段は何がいつから義務になるか
電子決済手段の区分は2023年から、仲介業の登録制は2026年6月1日から動いています。施行済みと未施行を分けて整理します。
| 制度・法令 | 状態 | 時期 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 資金決済法(令和4年改正。電子決済手段の区分の新設) | 施行済み | 2023年6月1日施行 | 金融庁(2023年5月26日) |
| 改正資金決済法(令和7年法律第66号。仲介業の登録制の新設) | 施行済み | 2025年6月13日公布/2026年6月1日施行 | 衆議院 |
| 関連政令・内閣府令・告示 | 公布済み | 政令は2026年5月19日に閣議決定。政令・内閣府令等はいずれも2026年5月22日に公布 | 金融庁(2026年5月22日) |
| 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の登録制 | 開始済み | 2026年6月1日 | 金融庁 |
| 改正金融商品取引法(令和8年法律第64号) | 成立・公布済み、未施行 | 2026年7月15日成立/2026年7月23日公布 | 金融庁 |
改正金融商品取引法は、暗号資産取引に係る規制を資金決済法から金商法へ移す内容を含みます。金融庁が公表した法律案要綱によれば、施行日は原則として公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令が定めることとされており、基準日時点では確定していません。
同じく金融庁の法律案の概要では、移管の対象は暗号資産であり、電子決済手段は資金決済法に残る構成が示されています。仲介業のうち暗号資産仲介行為に係る部分は、施行後に金商法側の枠組みへ移る予定です。
立場別に見る義務の中身
義務は「発行する」「売買・管理する」「媒介だけを行う」の3つで大きく変わります。まず自社の立場を1つに定めます。
電子決済手段を発行する場合
電子決済手段の発行は、資金決済法上は為替取引として位置づけられています。為替取引を業として営めるのは銀行等と資金移動業の登録を受けた者に限られ(2条2項、37条)、信託型では特定信託受益権の発行が「特定信託為替取引」と定義され(2条31項)、発行主体は特定信託会社になります(2条30項)。
| 求められること | 具体的な内容と根拠条文 |
|---|---|
| 発行主体の免許・登録 | 銀行の免許、資金移動業の登録、特定信託会社の枠組みのいずれか |
| 裏付け資産の管理(資金移動業型) | 履行保証金の供託等(43条) |
| 裏付け資産の管理・運用(信託型) | 受け入れた金銭の一定割合以上を預貯金で管理し、残りを内閣府令で定める債券で運用(2条9項) |
| 償還・払戻しへの対応 | 払戻しの求めに応じる窓口と、応答期限を定めた規程 |
| 自ら売買・管理も行う場合 | 内閣総理大臣への届出(62条の8) |
発行形態の選び方は【内部リンク:ステーブルコイン発行スキーム比較(資金移動業型と信託型)】で比較します。
電子決済手段の売買・交換・管理・媒介を行う場合
資金決済法62条の3は、電子決済手段等取引業を内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行ってはならないと定めています。登録には、株式会社であること(外国会社の場合は本国で同種の登録を受けた外国電子決済手段等取引業者で、国内に営業所を有すること)、財産的基礎、体制整備、認定資金決済事業者協会への加入または同等の社内規則の整備が求められます。満たさない場合は登録が拒否されます(62条の6)。
| 求められること | 具体的な内容と根拠条文 |
|---|---|
| 利用者財産の分別管理 | 利用者の電子決済手段を自己のものと分けて管理する体制と、公認会計士等による定期監査(62条の14) |
| 金銭等の預託の禁止 | 利用者から金銭その他の財産の預託を受けない業務フロー(62条の13) |
| 誤認防止と情報提供 | 発行者側の業務との誤認を防ぐ説明と、手数料や契約内容を伝える手順(62条の12) |
| 発行者との契約 | 取り扱う電子決済手段の発行者との、賠償責任の分担等を定めた契約(62条の15) |
| 取引時確認 | 犯罪収益移転防止法の特定事業者として行う取引時確認(同法2条2項31号の2、4条) |
| 移転時の通知 | 移転にあたり依頼人・受取人の本人特定事項等を移転先へ通知する仕組み(同法10条の3) |
| 苦情対応 | 指定紛争解決機関との手続実施基本契約または苦情処理措置等(62条の16) |
| 委託先・情報の管理 | 委託先指導(62条の11)、情報の安全管理措置(62条の10) |
電子決済手段の媒介だけを行う場合
電子決済手段・暗号資産サービス仲介業は、電子決済手段等取引業者または暗号資産交換業者(所属業者)の委託を受けて、売買・交換の媒介を行う類型です(2条18項)。63条の22の2は、この登録を受けた者は62条の3および63条の2にかかわらず仲介業を営めると定めています。
| 求められること | 具体的な内容と根拠条文 |
|---|---|
| 仲介業の登録 | 業務の遂行体制の整備。所属業者が認定資金決済事業者協会に加入していること(63条の22の5) |
| 所属業者との関係 | 委託契約と、所属業者が利用者の損害の賠償責任を負う建付けの確認(63条の22の14) |
| 行為の範囲の制限 | 委託を受けた仲介行為以外に2条10項各号・15項各号の行為を行わないこと(63条の22の9) |
| 金銭等の預託の禁止 | 名目を問わず利用者から財産の預託を受けない業務フロー(63条の22の13) |
| 説明・委託先・情報管理 | 誤認防止の説明と契約内容の情報提供(63条の22の12)、再委託先への指導(63条の22の11)、情報の安全管理(63条の22の10) |
電子決済手段の規制に対応しない場合どうなるか
無登録営業には刑事罰が定められており、その手前でも行政処分と事業面の影響が出ます。まず条文上の2層を表で押さえます。
| 層 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 刑事罰 | 62条の3の登録を受けずに電子決済手段等取引業を行った場合、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科 | 107条1項8号 |
| 刑事罰 | 利用者の電子決済手段を分別管理しなかった場合、2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科 | 108条3号 |
| 刑事罰 | 自社発行分を自ら取り扱う際の届出をせず行った場合、100万円以下の罰金 | 113条2号 |
| 刑事罰(法人) | 両罰規定。分別管理義務違反などは法人に3億円以下の罰金刑 | 115条1項1号 |
| 行政処分 | 業務の運営または財産の状況の改善に必要な措置の命令 | 62条の21(仲介業は63条の22の19) |
| 行政処分 | 登録の取消し、または6か月以内の業務停止 | 62条の22第1項(仲介業は63条の22の20) |
3層目は条文に書かれていない事業面の影響です。登録の有無は、決済事業者や金融機関との接続審査、資金調達時のデューデリジェンスで最初に確認されます。提携先の審査が処分歴でどれだけ止まるかの公表データはありませんが、業務停止期間が終われば取引が元どおりに戻る、という前提では見積もれません。
電子決済手段の実務対応の着手順・担当部門・期間の目安
検討は「自社の行為の切り出し」から始めます。区分が定まらないまま体制設計に入ると後戻りが大きくなります。

| # | 作業 | 主担当 | 関与 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 自社の行為の切り出し(発行・取扱・仲介・非該当の4分類) | 事業企画 | 法務 | 判定結果と根拠が1枚にまとまっている |
| 2 | 取り扱う電子決済手段の類型の確定 | 事業企画 | 法務・経理 | 発行主体・裏付資産・償還条件が特定できた |
| 3 | 登録要否の法務判断と当局への事前相談 | 法務 | 事業企画 | 相談記録が残った |
| 4 | 社内体制の設計(AML、分別管理、システム、委託先管理) | コンプライアンス | 情報システム | 規程案と責任者が決まった |
| 5 | 会計・税務処理の確認 | 経理 | 監査法人 | 処理方針が文書化されている |
| 6 | 登録申請または既登録事業者との提携 | 法務 | 事業企画 | 申請受理または契約締結 |
期間について公表されているのは、登録審査の標準処理期間だけです。電子決済手段等取引業の登録は申請が事務所に到達してから2か月以内に処分するよう努めるものとされ(電子決済手段等取引業者に関する内閣府令88条)、資金移動業も同じく2か月です(資金移動業者に関する内閣府令42条)。ただしこの2か月に補正や追加資料の提出に要する期間は含まれません。
一方、事前相談から申請までの準備期間と体制構築の工数には公表された目安がありません。工程1から工程5は社内の合意形成の速度で決まります。
工程1でまとめる1枚には、次の項目を書きます。
- 扱う電子決済手段の類型(2条5項の1号から4号のどれか、発行主体は誰か)
- 資金の流れ(誰から誰へ、どの時点で対価が動くか)
- 利用者の金銭・電子決済手段を預かるかどうか
- 委託先・接続先の登録状況(電子決済手段等取引業、仲介業、資金移動業のどれか)
- 上の4項目から導いた判定結果と、根拠にした条文
最初の4項目の組み合わせで、自社の行為が発行・取扱・仲介のどれに当たるかが決まります。
発行体と組んで暗号資産も併せて扱う場合など、工程5で暗号資産の課税に触れる場合は電子決済手段の会計処理と切り分けます。暗号資産の譲渡益の課税区分は国税庁の公表資料で確認します。
金融商品取引法上の位置づけの変更に伴って課税方式の見直しが進められていますが、適用の内容と時期は基準日時点で確定していません。取引時点の取扱いは国税庁の最新の公表資料に当たって確かめてください。
電子決済手段側は発行形態と保有目的で確認する項目が変わるため、監査法人と個別に詰めます。取引モニタリングの設計は【内部リンク:ステーブルコインのAML・取引モニタリング実務】で解説します。
区分の判定から体制設計、登録手続までは、どこか1部門で完結しません。判定の前提になる4つの条件が部門をまたいで初めて埋まるうえ、条文の読み合わせと決済フローの設計を同時に進めることになるため、担当を割り付ける段階で止まりやすい領域です。事業企画・法務・情報システムを横断して進める場合の体制と論点の並べ方は、[ステーブルコイン導入支援](/service/stablecoin/)にまとめています。
電子決済手段の実務でつまずきやすい論点
条文どおりに読むだけでは判断が割れる論点が4つあります。設計段階で確認すると後の差し戻しが減ります。
海外で発行された電子決済手段を国内で扱えるか
国内で売買・交換・管理・媒介を業として行う場合、発行地がどこであっても電子決済手段等取引業の枠組みで検討します。確認する点は3つです。発行者と賠償責任の分担等を定めた契約を締結できるか(62条の15)、移転先が海外の業者になる場合の通知を実装できるか(犯罪収益移転防止法10条の3)、発行者側の裏付け資産の管理・償還条件を国内の要件に照らして説明できるかです。
米国のGENIUS法やEUのMiCAのもとで発行されたステーブルコインも、この3点を1銘柄ずつ確認する対象です。海外の制度で発行が認められていることと、国内の要件に照らして説明できることは別に確かめます。
なお、62条の3の登録を受けていない外国電子決済手段等取引業者は、国内にある者に対して2条10項各号の行為の勧誘をしてはならないと定められています(資金決済法63条)。海外事業者から提案を受けた場合は、この点が起点になります。
「代金として受け取るだけ」のつもりが媒介に近づく場合
自社サービスの対価として受け取るだけであれば、2条10項各号の行為には当たらないという整理が出発点です。ただし、利用者に代わって円との交換を手配する、利用者間の受け渡しを仲立ちする、ウォレットを預かるといった機能を足すと、媒介や管理の側へ寄っていきます。機能を足すたびに区分を再確認する運用が実務的です。
前払式支払手段として設計したものが電子決済手段に近づく場合
電子決済手段の1号類型は前払式支払手段を明文で除いています(2条5項1号)。一方で、利用者どうしの譲渡を認める、加盟店以外への支払いを認める、払戻しを広く認めるといった変更を重ねると、除外の前提が崩れる方向に動きます。仕様変更の起案フローに区分確認を組み込むと、リリース直前の差し戻しを避けられます。
委託先・接続先の登録状況の確認が自社の責任になる
業務の一部を第三者に委託した場合、委託先への指導その他の必要な措置は自社の義務です(62条の11、仲介業は63条の22の11)。ウォレット、本人確認、取引モニタリングを外部に依存する構成では、委託先の登録状況と二段階以上の再委託の有無まで確認対象に含まれます。登録の有無は金融庁「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」で確認できます。
電子決済手段に関するよくある質問
銀行でも資金移動業者でもありませんが、電子決済手段を発行できますか
電子決済手段の発行は為替取引として位置づけられ、為替取引を業として営めるのは銀行等と資金移動業の登録を受けた者に限られます(2条2項、37条)。信託型の発行主体は特定信託会社です(2条30項)。いずれにも当たらない場合、自社単独での発行はできず、既存の発行体と組む設計になります。その場合に自社の役割が売買・交換・管理・媒介のどれに当たるかで、次に見る登録区分が変わります。
登録を受けた事業者と提携する場合、自社にも登録は要りますか
提携先が登録を受けていても、自社が売買・交換、その媒介・取次ぎ・代理、他人のための管理を業として行うのであれば、電子決済手段等取引業の登録が要ります(2条10項各号、62条の3)。取引業者の委託を受けて売買・交換の媒介だけを行い、利用者の財産を預からない形であれば、仲介業の登録が対応する類型です(63条の22の2)。自社が発行する電子決済手段を自ら取り扱う場合は届出になります(62条の8)。
海外で発行されたステーブルコインを国内の決済に使えますか
発行地が海外でも、国内で売買・交換・管理・媒介を業として行うのであれば、電子決済手段等取引業の枠組みで検討します。発行者との賠償責任の分担等を定めた契約(62条の15)、移転時の通知(犯罪収益移転防止法10条の3)、裏付け資産と償還条件を説明できるかが確認点です。また、62条の3の登録を受けていない外国電子決済手段等取引業者は、国内にある者に対して2条10項各号の行為の勧誘をしてはならないと定められています(資金決済法63条)。
自社ポイントは電子決済手段に当たりますか
電子決済手段の定義(資金決済法2条5項)は、不特定の相手への支払いに使えることと、通貨建資産として記録されていることを要件に含みます。自社サービス内でのみ使え、利用者どうしで送り合えず、法定通貨建ての債権としての性質を持たない設計であれば、この要件に当たりません。外部への譲渡や円への払戻しを認めると前提が変わります。
電子決済手段のまとめ
要点は3つです。
- 電子決済手段は資金決済法2条5項の区分であり、発行・取扱・仲介のどれに当たるかで必要な登録も義務も変わる
- 改正資金決済法と関連法令は2026年6月1日に施行済みで、仲介業の登録制も動いている
- 着手は区分の切り出しを先に固め、体制設計と登録手続をその後に置く順序になる
未確定の論点も残ります。改正金融商品取引法は成立・公布済みで未施行のため、暗号資産側と電子決済手段側の制度の接続は、施行日を定める政令とその後の内閣府令・監督指針を待つ段階です。確認先は、金融庁の公表資料、パブリックコメントの結果、官報、e-Gov法令検索です。
制度面と並んで、用途面の前提も見ておく価値があります。電子決済手段は電子的な仕組みで移転できる日本円建ての支払手段であり、人手を介さずプログラムから直接扱える設計になっています。AIエージェントに決済や資金移動を任せる構成を検討する場合、この性質がそのまま受け皿になります。
区分の判定を規制対応で終わらせず、自動化された取引に自社がどう接続するかの入り口として捉えると、体制設計の優先順位も変わります。トークン化された金融サービス全体の動きはオンチェーン金融で解説しています。
本記事は、公表資料に基づく制度の一般的な整理です。個別の事業スキームが登録を要するか、どの区分に当たるかの判断は、弁護士等の専門家への相談および金融庁への事前相談で確認してください。記載は基準日時点の情報であり、その後の政省令・監督指針の改正により変わることがあります。
施行後は、条文よりも内閣府令・監督指針・事務ガイドラインの運用が判断を左右する場面が増えます。自社の設計が要件を満たしているかは条文の読み合わせだけでは確認しきれず、当局の運用が固まる過程を追い続ける体制が要ります。この負荷を立ち上げ期の社内だけで抱え込まない進め方は、[ステーブルコイン導入支援](/service/stablecoin/)で扱っています。