トークン化預金とは、銀行預金をブロックチェーンなどの分散台帳上のトークンとして発行し、預金のまま送金・決済に使えるようにする仕組みです。
企業にとっては、銀行営業時間に縛られない企業間決済や、条件付きの自動支払いといった資金管理の新しい選択肢になります。
条件を満たすと自動で支払う仕組みは、AIエージェントが人手を介さず支払いを実行する決済(AI経済圏)の土台と重なる領域でもあり、その支払い手段として預金のまま動かせるお金が検討されています。
国内では銀行による実証・実装が動き始めた段階で、商用利用はまだ限定的です。
本記事は2026年7月30日時点の公表資料に基づきます。この記事で分かることは次の3つです。
- トークン化預金の仕組みと、ステーブルコイン・CBDC(中央銀行デジタル通貨)・電子マネーとの違い
- 国内プロジェクト(DCJPY・トチカ・銀行間決済実証)の発行状況
- 自社で検討を進める場合の判断軸と着手順
トークン化預金(預金トークン)とは
トークン化預金とは、銀行が預金残高を裏付けとして発行し、預金の性質を保ったまま台帳上で移転できるようにしたデジタルなお金です。
「トークン化預金」と「預金トークン」は同じ概念を指し、英語のTokenized Deposit/Deposit Tokenに対応します。本記事ではトークン化預金で統一します。
ステーブルコインとの違いは、発行主体が銀行であり、保有者が持つのは法的にはあくまで預金(銀行に対する債権)である点です。詳しい比較は後半の比較表で整理しますが、この1点がリスク・規制・使える範囲の違いのほとんどを説明します。
なぜ今トークン化預金が注目されるのか
注目の理由は、企業間決済・銀行間決済を24時間365日動かせるインフラとして、銀行自身が実証を始めたことにあります。ステーブルコインの制度整備と並走して、「銀行預金のまま台帳に乗せる」道筋の検証が国内でも進んでいます。
国内の主なプロジェクトの発行状況は次のとおりです(2026年7月30日時点)。
| プロジェクト | 主体 | 分類 | 発行状況 |
|---|---|---|---|
| トークン化預金プラットフォームDCP(DCJPY) | 株式会社DCP・デジタル通貨フォーラム | トークン化預金(銀行預金をトークン化したデジタル預金) | 2026年7月に「DCJPYネットワーク」から現名称へ変更。商用の環境価値取引の事例を公表 |
| トチカ | 北國銀行 | 公式名称は「預金型ステーブルコイン」。預金を裏付けに銀行の関与の下で移転する構造で、本記事でいうトークン化預金の類型 | 2024年4月にサービス開始。1トチカ=1円、石川県の加盟店決済で利用 |
| 銀行間決済の高度化実証 | ディーカレットDCP・GMOあおぞらネット銀行・アビームコンサルティング | トークン化預金による内国為替の実証 | 2026年4月3日に金融庁「FinTech実証実験ハブ」の支援案件に採択。幹事行方式とステーブルコイン連携方式の2方式を検証 |
隣接する動きとして、3メガバンク(みずほ・三菱UFJ・三井住友)は2026年6月に共同発行ステーブルコインの2026年度中の実取引開始を発表していますが、これは信託型ステーブルコインであり、トークン化預金とは区分されます。
海外では、JPMorganが機関顧客向けの米ドル建てトークン化預金JPMD(JPM Coin)を提供しており、JPMorganは公式に「銀行預金のデジタルな表章(digital representation of a bank deposit)」と説明しています。
トークン化預金の仕組み
仕組みは「発行→移転→払戻し」の3段階で捉えると分かりやすい構造です。
- 発行:銀行が預金残高を裏付けに、同額のトークンを台帳上に発行します。
- 移転:本人確認(KYC)済みの口座保有者の間で、トークンを送金・決済に使います。銀行の関与の下で台帳上の残高が動きます。
- 払戻し:受け取った側は、トークンをいつでも通常の預金残高に戻せます。

発行・償還の流れと参加者
発行は利用者が預金残高をトークンへ振り替える指示を出した時点で銀行が台帳へ計上し、償還はその逆に台帳の残高を消して同額を預金口座へ戻す流れで、いずれも銀行の勘定内で完結します。トークン化預金の参加者は、発行する銀行と、その銀行に口座を持つ利用者(企業・個人)で構成されます。移転できる相手が「同じ仕組みに参加する口座保有者」に限られる点は、不特定の相手に流通させるステーブルコインとの実務上の大きな違いです。
スマートコントラクトで何が自動化できるか
銀行や参加企業が台帳上のプログラム(スマートコントラクト)を組み合わせると、条件を満たしたときに自動で支払う処理を組めます。代表例は、証券や商品の受け渡しと代金決済を同時に成立させるDVP(同時履行)と、納品データの確認と連動した自動振込です。「支払いの実行」を人手の振込操作から切り離せることが、企業実務での価値の中心です。
トークン化預金とステーブルコイン・CBDC・電子マネーの違い
違いは「誰が発行し、何に裏付けられ、誰の間で動くか」の3点でほぼ整理できます。

| 比較項目 | トークン化預金 | ステーブルコイン | CBDC(中央銀行デジタル通貨) | 電子マネー(前払式支払手段) |
|---|---|---|---|---|
| 発行主体 | 銀行 | 資金移動業者・信託会社等(銀行以外が中心) | 中央銀行 | 事業者(前払式支払手段発行者) |
| 保有者が持つもの | 預金債権(銀行への預金のまま) | 発行者への償還請求権等(スキームによる) | 中央銀行に対する請求権(設計は検討中) | 前払いした利用権 |
| 使える範囲 | 参加銀行の口座保有者間 | 不特定の者への流通を想定 | 検討中 | 加盟店での支払い |
| 払戻し | いつでも預金として払い戻し可能 | 発行スキームの償還条件による | 検討中 | 原則として払戻し不可 |
| 日本での発行状況 | 実証・一部サービス開始 | 改正資金決済法により電子決済手段としての制度が整備され、2026年7月30日時点で実証段階の発行事例と、2026年度中の実取引開始の公表があった | 日本銀行がパイロット実験中(発行の可否・時期は未確定) | 普及済み |
ステーブルコインとの違いを補足すると、日本では、法定通貨建てで発行価格と同額での償還が想定される一部のステーブルコインについて、資金決済法上の「電子決済手段」として整理される枠組みが設けられています。ステーブルコインはこの枠組みの下で銀行以外の主体が発行し、不特定の相手への流通を想定する設計が中心です。
一方トークン化預金は、預金が台帳に乗っただけであり、発行も移転も銀行の関与の下で行われます。供給量が銀行のバランスシート上の預金と1対1で対応する点で、規律のかかり方が根本的に違います。
CBDCは発行主体が中央銀行になる構想で、日本銀行は2023年4月からパイロット実験を続けていますが、2026年6月の進捗報告書でも設計を確定するものではないと明記されており、発行の可否・時期は未確定です。
企業・金融機関におけるトークン化預金の活用領域
活用領域は、業務プロセス単位で見ると次の4つに集約されます。
- 企業間決済の24時間化:銀行営業時間・締め時刻に縛られない休日・夜間の支払い。サプライチェーン上の支払いサイト短縮の手段
- グループ内・多拠点の資金管理:親会社の財務部門によるグループ各社の資金移動の一元管理。資金の滞留の削減
- 証券決済との同時履行(DVP):証券会社・信託銀行によるトークン化された証券の受け渡しと代金決済の同時成立。決済リスクの低減
- 条件付きの自動支払い:経理部門の検収データ・契約条件と連動した支払いの自動実行。振込オペレーションの削減
なお、これらの効果の定量的な開示(コスト削減額など)は、国内では公表事例がまだ限定的です。効果試算は自社の決済件数・資金移動の実態から積み上げる段階にあります。
トークン化預金に関するよくある誤解
トークン化預金は新しい概念のため、区分の誤解が実務の検討を混乱させがちです。よく見かける整理の誤りを4つ挙げます。
| よく見かける説明 | 実際 |
|---|---|
| トークン化預金はステーブルコインの一種 | 法的には預金債権であり、資金決済法上の電子決済手段(ステーブルコイン側の枠組み)とは区分される整理が一般的 |
| 銀行が関わるデジタル通貨はすべてトークン化預金 | 銀行グループによる日本法準拠ステーブルコインの発行実証(みんなの銀行などが公表)はステーブルコインの取り組みであり、トークン化預金ではない |
| 信託型の発行基盤(Progmat Coinなど)もトークン化預金 | Progmat Coinは信託型ステーブルコインの発行基盤であり、銀行発行のトークン化預金とは制度区分が異なる |
| すぐに誰でも使える | 利用は参加銀行の口座保有者間に限られ、国内は実証・限定的なサービスが中心 |
紛らわしい実例として、北國銀行のトチカは公式名称が「預金型ステーブルコイン」ですが、預金を裏付けに銀行の関与の下で移転する構造で、本記事の分類ではトークン化預金の類型に当たります。名称ではなく「発行主体と保有者が持つ権利」で区分するのが、迷わない見分け方です。
トークン化預金の規制・制度上の位置づけ
法的には「預金のまま」というのが基本の整理で、ステーブルコインのような新しい業規制の枠には乗りません。
金融庁金融研究センターの研究資料(2025年12月)では、銀行が発行し銀行が移転に関与するデジタルマネーについて、その決済手段は普通預金などの要求払預金に係る債権(預金債権)であるとする理解が一般的と整理されています。また同資料は、こうした銀行発行のデジタルマネーが資金決済法上の電子決済手段とは区別される構造であることも示しています。一次資料は金融庁金融研究センターのディスカッションペーパーで確認できます。
預金保険については、預金債権である以上、原則として預金保険の枠組みに含まれ得るという理解が自然ですが、トークン化預金固有の整理を確定的に明示した公式資料は2026年7月30日時点で公表されていません。導入検討では「対象になるはず」を前提にせず、参加スキームの規約と取引銀行への確認で潰すべき論点です。
なお、この研究資料は執筆者個人の見解であり金融庁の公式見解ではない旨の断り書きが付されています。制度の適用関係の最終確認は、弁護士・取引銀行を通じて行ってください。
トークン化預金導入のリスクと設計上の注意点
リスクは「何が起きると業務が困るか」の形で3つに整理できます。
- 流通範囲の制約が業務要件と合わない:支払先は参加銀行の口座保有者に限定。取引先の対応状況次第で既存の振込は置き換わらず、対象取引の洗い出しが先
- 定量効果が未確立の段階での投資判断:既存システム・業務フローとの接続には開発と運用変更が伴う。公表された削減効果の実例が少ない段階では、自社データでの試算が唯一の判断根拠
- 実証段階ゆえの仕様変更:参加スキームが実証中なら仕様・規約・提携構成が変わり得る。長期の業務設計をロックしすぎない構えが要る
トークン化預金の導入検討の進め方
検討は「用途の特定→方式の適合判定→参加・提携の確認→体制整備→小さく検証」の順で進めると、手戻りが少なくなります。
| 順番 | 作業 | 主担当部門 | 関与部門 | 期間の目安 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 対象業務の特定(どの決済・資金移動を置き換えるか) | 経営企画・財務 | 事業部門 | 最初の1〜2か月 | 対象取引と相手先のリストができた |
| 2 | 方式の適合比較(トークン化預金かステーブルコインか) | 経営企画 | 法務・財務 | 1と並行 | 判断軸(下記)で自社の適合方式を文書化した |
| 3 | 参加スキーム・提携先の確認 | 財務・経営企画 | 法務 | 2の結論後 | 参加条件・規約・費用の一次情報を入手した |
| 4 | 社内体制・規程の整備 | 法務・経理 | システム | 3と並行 | 決裁権限・経理処理・リスク管理の規程案ができた |
| 5 | 小規模検証の設計 | システム・財務 | 全関係部門 | 4の後 | 検証範囲・評価指標・撤退条件を定義した |
方式の判断軸は流通範囲で決まります。支払う相手が特定の取引先・グループ内に閉じるならトークン化預金の設計が素直で、不特定の顧客・国外への流通を想定するならステーブルコイン側の枠組みが候補になります。どちらが優れているかではなく、流通範囲・相手方・既存口座との関係で適合が決まります。
検討の全体は、次のチェックリストで管理できます。
| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先(一次情報) | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 自社業務で使えるか | 対象取引の相手先が参加スキームに乗れるか | 各プロジェクトの公表資料・取引銀行 | 対象取引の適合可否を一覧化した |
| 法務・規制 | 預金債権としての整理と、参加規約上の制約 | 金融庁の公表資料・弁護士 | 制度上の位置づけと論点を文書化した |
| 会計・税務 | 預金としての処理でよいか、利用形態固有の論点がないか | 顧問会計士・監査法人 | 経理処理方針の確認記録を残した |
| システム接続 | 既存の会計・支払システムとの接続方式と開発規模 | 参加スキームの技術資料・自社システム部門 | 概算の開発規模と接続方式を見積もった |
| 提携・参加先 | 参加条件・費用・実証スケジュール | 各スキームの事務局・取引銀行 | 参加判断に必要な条件が揃った |
この検討が社内で止まりやすいのは、用途・規制・システム・提携先という4つの変数が別々の部門に散らばり、どれか1つを確定しないと他も決められない構造になっているためです。比較表を作ったところで議論が止まっているなら、それは情報不足ではなく、変数を同時に動かす推進体制の問題であることが多いです。
ステーブルコインとトークン化預金の適合判断から導入設計までを一体で進める場合の考え方は、[ステーブルコイン導入支援](/service/stablecoin/)で整理しています。
トークン化預金に関するよくある質問
トークン化預金と預金トークンは同じ意味ですか
同じ概念です。英語ではTokenized Deposit(トークン化預金)とDeposit Token(預金トークン)が使われ、日本語ではどちらの訳語も流通しています。資料を読み比べる際は、名称ではなく発行主体(銀行かどうか)と保有者の権利(預金債権かどうか)で同一性を判断すると混乱しません。
トークン化預金は預金保険の対象になりますか
法的には預金債権のため、原則として預金保険の枠組みに含まれ得ますが、トークン化預金固有の取扱いを確定的に示した公式資料は基準日(2026年7月30日)時点で公表されていません。実務では、参加を検討するスキームの規約でトークン保有中の残高がどの口座の預金として扱われるかを確認し、そのうえで取引銀行に個別照会するのが確実です。
いつから使えるようになりますか
国内では、北國銀行のトチカのように限定された地域・用途でサービスが始まっている例はありますが、企業間決済の本格的な商用サービスは実証段階が中心です。全国的に「いつから」と言える確定した時期は公表されていません。検討中のスキームの実証スケジュールを個別に確認するのが現実的です。
ステーブルコインとどちらを検討すべきですか
流通範囲で決まります。支払相手が特定の取引先・グループ内に閉じるならトークン化預金、不特定の顧客への流通や国外利用を想定するならステーブルコイン側の枠組みが候補です。優劣ではなく適合の問題であり、両にらみで比較検討する企業も少なくありません。
トークン化預金のまとめ
トークン化預金は、銀行預金を預金のまま台帳に乗せる仕組みで、発行主体が銀行であること、保有者の権利が預金債権であることがステーブルコインとの本質的な違いです。国内はDCJPY・トチカ・銀行間決済実証と動きが揃い始めた段階で、商用の広がりはこれからです。
自社の決済・資金管理のどこに当てはめるかは、業務要件・規制・システム・提携先が絡む複合判断であり、方式の比較だけを先に進めても結論が出にくい領域です。対象業務の特定から順に、部門横断で変数を同時に動かす体制を作ることが次の一歩になります。
本記事は制度・プロジェクトの公表情報に基づく一般的な整理であり、個別のスキームへの参加判断・法的評価は、弁護士・取引銀行・監査法人への確認を前提にしてください。基準日(2026年7月30日)以降の制度・プロジェクトの進展により内容が変わる可能性があります。